忘れられない、あの夏『aftersun/アフターサン』レビュー



子供の頃の夏休みは、誰にとっても特別な思い出だ。輝く太陽、吹き抜ける風、ビーチやプールでひとしきり遊んだ後の日焼けのあと…。胸に刻まれる懐かしい記憶の中には忘れられない人の姿もあるだろう。
『aftersun/アフターサン』はかつて父親と二人きりで過ごした「あの夏休み」を20年後当時の父親と同じ年齢になった娘の視点で、若き日の父の心情に寄り添い再生する物語だ。

11歳の夏休み、ソフィ(フランキー・コリオ)は31歳の父親カラム(ポール・メスカル)とともに陽光降り注ぐトルコのリゾート地へとやってきた。
離れて暮らしているがソフィは父が大好きで、思春期の娘と若い父親はまるで兄妹のような関係だった。二人はプール遊びや海でのシュノーケリングに興じ、穏やかで満ち足りた時間を過ごす。カラムが手にしたビデオカメラでお互いを撮影しあい、幸せな瞬間を映像に閉じ込めた。
父の揺れ動く感情にどこかで気づきながらも、ソフィはバカンスを最大限に満喫する。年上の友人たちとのちょっぴり刺激的な時間やナイトコンサート、初恋の始まりなど、思春期の入り口にいるソフィには全ての出来事がまぶしく映った。

20年後、31歳になったソフィ(セリア・ロールソン・ホール)は撮影した映像を振り返り父との夏休みの記憶を甦らせていく。映像に残るふとした時のカラムの表情や仕草や言葉、そしてソフィ自身の記憶が融合し、ソフィは31歳のカラムの心情を追体験してゆく。父の愛情、繊細さ、苦悩、哀しみ…時を経て父と娘は心を重ね合わせる。ほぼ説明のないシンプルなストーリーは観る人それぞれに解釈を委ねるがそれゆえに切なく、深い感情を呼び起こす。ビデオカメラの粗く不鮮明な映像がより一層過去と現在の隔たりを感じさせ、もう戻れない、大切な人とのかけがえのない時間が彼方で輝いているのに気付かされる。

『ロスト・ドーター』(21)のポール・メスカルが娘を深く愛する繊細な父親カラムを演じ「第95回アカデミー賞」主演男優賞に若干26歳でノミネートを果たした。ソフィ役はオーディションで800人の中から選ばれたスコットランド出身のフランキー・コリオ。新人とは思えぬ存在感で、無邪気だが大人びた魅力を放つソフィを瑞々しく演じている。監督・脚本は本作が長編デビューとなるスコットランド出身の新鋭シャーロット・ウェルズだ。

忘れ得ぬ思い出が胸を締め付ける、美しきノスタルジーに是非浸って欲しい。

文 小林サク

『aftersun/アフターサン』
5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

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